EV(電気自動車)の普及拡大が後押しするバッテリー技術の急速な進化が、製造業のエネルギー戦略を根本から変えつつあります。工場の再生可能エネルギー活用、電力コスト最適化、非常用電源確保において、大型蓄電システムの導入が加速しています。
エネルギー貯蔵システム(ESS)の種類と工場への応用
エネルギー貯蔵システム(ESS:Energy Storage System)には複数の技術が存在しますが、製造業の工場で最も実用的なのはリチウムイオン電池を用いた大型定置用蓄電池です。主な工場での活用シーンは①ピークカット:電力需要のピーク時に蓄電池から供給して電力料金の基本料金(デマンド料金)を削減、②太陽光発電の平準化:昼間の過剰発電を蓄えて夜間・曇天時に活用し、再エネの自給率を向上、③停電対策:工場の重要設備・生産ラインに対する非常用電源確保、④電力市場への参加:大型ESSをVPP(仮想発電所)として電力市場に参加しデマンドレスポンス収益を得る、の4つです。EV用バッテリーのコスト低下がESS市場にも波及しており、2021年のESS導入コストは5年前比で約60%低下しています。
次世代電池技術と製造業への影響
2021年の電池技術の最前線では、トヨタ自動車が全固体電池の2020年代前半の実用化を目指した開発を加速していることが大きな話題です。全固体電池は現行のリチウムイオン電池に対して、①安全性の大幅向上(電解液の液体→固体化で発火リスク激減)、②エネルギー密度の向上(容量大幅増)、③急速充電対応、という3つの優位性が期待されています。製造業への影響としては、EVの航続距離延伸による普及加速(サプライヤーへの影響)と、全固体電池製造自体が新たな製造業のコアプロセスとなる点が重要です。パナソニック、CATL、LG Energy Solutionなどの電池メーカーが日本・中国・韓国・欧米で巨大な電池工場(ギガファクトリー)を建設中で、電池製造業自体が製造業の新たな主役となりつつあります。
Harryの着眼点
エネルギー貯蔵技術の進化は、製造業の「エネルギー主権」を大きく高める可能性を持っています。自社で太陽光発電し、蓄電し、工場を動かす——この「エネルギーの自給自足」が経済的・戦略的に合理的な選択肢になりつつあります。また、ESSをVPP化して電力市場に参加することで、製造業が「電力の消費者」から「電力の供給者」へと転換する可能性もあります。エネルギー×デジタルの融合は、製造業に全く新しいビジネスモデルの扉を開いています。
出典:資源エネルギー庁「定置用蓄電システムの普及に向けた取組」2021年 / BloombergNEF「Electric Vehicle Outlook 2021」