2021年に入り、世界的な半導体不足が製造業、とりわけ自動車産業に深刻な影響をもたらしています。トヨタ、ホンダ、日産など主要自動車メーカーが相次いで生産調整を余儀なくされ、その損失は兆円規模に及ぶと試算されています。この危機は、現代の製造業がいかに半導体に依存しているかを浮き彫りにしました。
車載半導体危機の背景と製造業への影響
2020年のコロナ禍初期、自動車メーカーが需要減少を見越して半導体の発注を大幅に削減した一方、テレワーク普及によるPC・タブレット需要が急増。半導体メーカーはキャパシティをコンシューマー向けに振り向けました。その後、自動車需要が予想以上に早く回復したにもかかわらず、半導体の製造には数ヶ月のリードタイムが必要なため供給が追いつかず、深刻な不足が発生しました。現代の自動車1台には約1,000個の半導体が使われており、それが100個前後だった10年前と比べて需要は激増しています。自動運転、EV、コネクテッドカーの普及でさらに増加傾向にあり、今後も供給リスクは継続すると見られています。
半導体危機が促す調達戦略の変革とデジタル化
この危機を受け、製造業各社は調達戦略の抜本的な見直しを迫られています。具体的な対応策として注目されているのが、①二社購買・多様化:特定半導体メーカーへの依存を減らし、複数サプライヤーを確保、②在庫戦略の見直し:ジャスト・イン・タイムから適正在庫を持つ「ジャスト・イン・ケース」へ、③デジタル調達プラットフォームの活用:リアルタイムの市場価格・在庫情報モニタリング、④自社設計半導体への移行:AppleがM1チップで示した垂直統合モデルの参照、です。また、経済産業省は半導体産業への国内回帰支援策として台湾TSMCの熊本工場誘致を決定するなど、経済安全保障の観点から半導体供給体制の強化に乗り出しています。
Harryの着眼点
この半導体危機は、製造業に対して重要な教訓を与えています。特定のサプライヤーや生産地域に過度に依存することのリスク、ジャスト・イン・タイムの限界、そしてデジタル製品・サービスへの需要が従来の製造業の境界を越えて波及するという現代のリスク構造です。調達のデジタル化と可視化で先手を打てる企業と、従来の人的ネットワーク依存で対応が後手に回る企業との差が、この危機をきっかけに明確に開いていくでしょう。
出典:経済産業省「半導体・デジタル産業戦略」2021年3月 / ブルームバーグ「自動車産業の半導体不足、損失試算」2021年2月