「ARグラスをかけると目の前に組立手順が表示され、初心者でも熟練工と同じ精度で作業できる」――こうした未来がいよいよ現実になりつつあります。製造現場でのAR(拡張現実)活用が本格化し、作業指示の効率化から熟練技能のデジタル継承まで、幅広い課題解決に貢献しています。
製造現場でのAR活用ユースケース
製造業におけるAR活用の主なユースケースは、①組立・整備作業支援:スマートグラスに組立手順・部品番号・トルク値を重畳表示して作業を誘導、②遠隔支援:現場作業員がグラスで見ている映像をリモートの専門家に共有し、AR注釈で指示、③品質検査:デジタル設計図と実物を重ね合わせて寸法・形状を自動比較、④設備保守:AR上に過去の修理履歴・部品調達情報を表示して保守作業を効率化、の4つが代表的です。Microsoft HoloLens 2、PTC Vuforia、Scope ARなどのプラットフォームが市場をリードしており、ロッキード・マーティンやBMWなど大手製造業での実績が蓄積されています。国内でも富士フイルム、コニカミノルタ、小松製作所がARを活用した現場改善に取り組んでいます。
熟練技術のデジタル継承における AR の可能性
日本の製造業が直面する最重要課題の一つが、団塊世代の大量退職による技能の喪失(技術伝承問題)です。ARはこの問題に対する有力な解決策として期待されています。熟練工の作業を3Dスキャナーや複数カメラで撮影・解析し、「どの角度でどのように手を動かすか」といった暗黙知をデジタルデータ化してARコンテンツとして保存・再現する試みが進んでいます。神戸大学とパナソニックが共同研究で開発した「匠の技のAR化」システムでは、半田付け工程の熟練工の技術を95%の精度でデジタル再現できることを実証しました。この分野での人材育成効率化は、中小製造業にとっても大きなメリットをもたらします。
Harryの着眼点
AR技術は、製造現場の「見えない知識」を「見える知識」に変換する力を持っています。特に技術伝承の問題は、多くの日本の製造業が共通して抱える課題で、ARによるデジタル化は現実的かつ即効性の高い解決策です。ただし、ARコンテンツの作成・更新には継続的な工数が必要なので、最初から「誰がどのように管理するか」の体制を設計しておくことが重要です。また、現場作業員にARを受け入れてもらうための「現場巻き込み」が導入成功の最大のカギだと感じています。
出典:PTC社「ARを活用した製造業の現場改善事例集」2021年 / 神戸大学・パナソニック「匠の技のデジタル化共同研究成果」2020年