食品事故が発生した際の迅速な原因究明と製品回収(リコール)の効率化は、食品製造業の最重要課題の一つです。ブロックチェーン技術とIoTを組み合わせた「デジタルトレーサビリティ」が、食品サプライチェーン全体の透明性向上と消費者への安心提供を実現しています。
ブロックチェーンによる食品トレーサビリティの仕組み
食品製造業のトレーサビリティとは、「農場から食卓まで(Farm to Fork)」の各段階(生産・加工・流通・販売)における製品の情報を追跡・記録できる仕組みです。従来の紙ベースや個別のデータベース管理では、情報の改ざんリスク、サプライチェーン全体での情報共有の困難さが課題でした。ブロックチェーンを活用することで、各段階の情報が分散台帳に不変の形で記録され、改ざんが不可能になります。Walmartはスピナッチのトレーサビリティでブロックチェーンを導入し、汚染源の特定時間を7日間から数秒に短縮した事例が有名です。国内では、キッコーマンやカゴメが農産物の生産履歴のブロックチェーン管理を試験導入しています。
食品IoTとQRコードによる消費者への情報開示
スマートフォンでQRコードを読み取るだけで、その食品の生産地・生産者・栽培方法・加工工程・検査結果まで確認できる「食のデジタルパスポート」が普及してきています。農業用IoTセンサーで記録した土壌データ・気象データ・農薬使用記録がクラウドに蓄積され、QRコード経由で消費者がスマートフォンで閲覧できる仕組みです。ミナミファームの有機野菜や北海道の水産物ブランドで導入事例が増えており、高付加価値化と消費者からの信頼獲得につながっています。EU(欧州連合)では食品安全規制「一般食品法」の改定でデジタルトレーサビリティが義務化される方向で議論が進んでおり、輸出を視野に入れた食品メーカーには早期対応が求められています。
Harryの着眼点
食品トレーサビリティは「安全のコスト」ではなく、「品質ブランドへの投資」として捉えるべきです。消費者の食の安全意識は年々高まっており、どこで誰が作ったかを透明に開示できる製品は付加価値が高まります。特に農産物・水産物のブランド化を目指す産地や生産者にとって、デジタルトレーサビリティは「差別化の武器」になります。ブロックチェーン技術はコスト面でも以前より導入しやすくなっており、中小の食品メーカーでも取り組める環境が整ってきました。
出典:Walmart「ブロックチェーンによる食品安全トレーサビリティ」事例 / EU「Farm to Fork Strategy」2020年 / キッコーマン「デジタルトレーサビリティ実証実験」2021年