鉄鋼業はグローバルCO₂排出量の約7〜9%を占める「脱炭素の難所」だが、水素還元製鉄(DRI-H₂)と電炉(EAF)の組み合わせによる「グリーンスチール」が商業化の臨界点に近づいている。2025年から複数のパイロット工場が本格稼働し始め、鉄鋼サプライチェーン全体の再設計が始まった。
水素還元製鉄の仕組みと商業化の壁
高炉製鉄はコークス(炭素)で鉄鉱石を還元するが、水素製鉄はH₂を還元剤として用い、副産物が水になる。スウェーデンのHYBRIT(SSAB・LKAB・Vattenfall合弁)は2024年に年産5万トン規模の実証プラントを稼働させ、従来比95%のCO₂削減を達成した。課題はグリーン水素コストで、現状は高炉比で製造コストが1.5〜2倍。EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)の本格運用(2026年〜)が経済性を大きく改善すると予測されている。
自動車・建設業界が主導するグリーンスチール需要
Volvo CarはHYBRITと長期購買契約を締結し、2026年以降の車体鋼板をグリーンスチールに切り替えると発表。日本では日本製鉄が2030年代の商業化を目標に超高炉水素還元技術「COURSE50」を推進中だ。また建設分野ではスウェーデン・H2 Green Steelが2025年夏に年産250万トン工場を稼働させ、欧州の建設大手との複数年契約を結んでいる。
Harryの着眼点
グリーンスチールの普及は「モノを作るコスト」の再定義を迫る。現在は高価な選択肢だが、カーボンプライシングが強化されるほど経済合理性が逆転し、2030年代には高炉製鉄が「割高な旧技術」になる可能性がある。日本の製造業は鉄鋼の調達戦略を今から見直す必要があり、特にサプライチェーン全体のスコープ3排出量への対応が遅れている企業は、欧州・北米市場から締め出されるリスクを直視すべきだ。
出典:HYBRIT公式レポート「Fossil-free Steel at Scale」(2024年);EU CBAM規則(2023/956);H2 Green Steel社プレスリリース(2025年2月)