量子コンピューティングが製造業に与えるインパクト――最適化問題を解く次世代技術

量子コンピューティングはまだ「実用化への助走段階」にありますが、製造業の複雑な最適化問題を解く能力において、従来のコンピュータを大幅に凌駕する可能性が注目されています。物流ルートの最適化、生産スケジューリング、新材料の開発シミュレーションなど、製造業の核心課題への応用研究が世界中で加速しています。

量子コンピューティングの基礎と製造業への応用可能性

量子コンピュータは、0か1かを同時に処理する「量子重ね合わせ」と「量子もつれ」という量子力学の原理を利用することで、特定の計算問題を指数関数的に速く解くことができます。製造業での応用可能性として特に期待されているのは①組み合わせ最適化問題(生産スケジューリング、配送ルート最適化、サプライチェーン最適化)、②材料科学・化学シミュレーション(新素材・新触媒の分子レベルシミュレーション)、③機械学習の高速化(量子機械学習)の3領域です。IBMはIBM Quantum Experience、Googleはサイカモアプロセッサ、日本では富士通とNECが独自の量子コンピューティング研究を進めています。2021年現在、現実的な産業応用はまだ限定的ですが、量子化学シミュレーションを利用した電池材料・触媒開発の分野では2023〜2025年頃に実用化の兆候が見えてきています。

量子技術への製造業各社の先行投資と研究動向

BASFやダウ・ケミカルなど大手化学メーカーが量子コンピュータを用いた触媒シミュレーション研究を開始。ダイムラー(現メルセデス・ベンツ)はIBMとのパートナーシップで電気自動車用バッテリーの電解液最適化に量子シミュレーションを適用する研究を進めています。国内では、日本IBMと日本企業の連携による量子イノベーションイニシアティブ(QII)が設立され、東芝、三菱ケミカル、JSRなどが参画。特に三菱ケミカルは量子コンピュータを使った分子シミュレーションで次世代電池材料の発見を加速させることを目指しています。量子コンピューティングは「投資の先行」が重要で、本格実用化に備えたノウハウ蓄積が今から必要です。

Harryの着眼点

量子コンピューティングはまだ「10年後の技術」と思われがちですが、材料シミュレーション分野では現時点でも小規模な問題で実用的な成果が出始めています。製造業の経営者にとって重要なのは、今すぐ投資するかどうかではなく、「自社の事業のどの課題に量子コンピューティングが適用できるかを理解しておく」ことです。特にバッテリー・触媒・新素材開発に取り組む企業は、今のうちに量子化学シミュレーションの理解を深めておくことが将来の競争優位につながると確信しています。

出典:IBM Quantum「量子コンピューティングの製造業応用」2021年 / 日本IBMプレスリリース「量子イノベーションイニシアティブ設立」2021年

コメントを残す