欧州委員会(European Commission)が2021年1月に発表した「Industry 5.0」(インダストリー5.0)構想が製造業界で注目を集めています。インダストリー4.0がデジタル技術による効率化・自動化に焦点を当てたのに対し、インダストリー5.0は「人間中心(Human-centric)」「持続可能性(Sustainable)」「強靭性(Resilient)」の3つを柱に、技術と社会の調和を目指す概念です。
インダストリー5.0の3つの柱と背景
欧州委員会がインダストリー5.0を提唱した背景には、インダストリー4.0の進展が必ずしも人間や環境のウェルビーイングに直結しないという問題意識があります。①人間中心(Human-centric):AIやロボットが人間を代替するのではなく、人間の能力を拡張・支援し、人間が創造性・判断力・感性を発揮できる仕事に集中できる環境を作る。②持続可能性(Sustainable):製造業の環境負荷を最小化し、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現に製造技術が積極的に貢献する。③強靭性(Resilient):パンデミックや気候変動など予期せぬ危機に対して素早く適応できる、柔軟で強靭な生産体制を構築する。これらは経済効率だけを追求してきたインダストリー4.0を超えた、より包括的な製造業の未来像です。
日本製造業にとってのインダストリー5.0の意義
インダストリー5.0の概念は、日本が古来大切にしてきた「人と技術の調和」「ものづくりの心」「品質へのこだわり」という価値観と非常に親和性が高いと言えます。「匠の技×デジタル」という日本の強みが、インダストリー5.0時代にこそ輝く可能性があります。また、日本は少子高齢化により労働力が減少する中、人間と機械が最適な役割分担で協働するHRC(ヒューマン・ロボット・コラボレーション)の必要性が特に高く、インダストリー5.0の実践的な先行事例を世界に示せる立場にあります。Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)のESGへの注目が高まる中、インダストリー5.0は日本製造業のESG戦略とも整合します。
Harryの着眼点
インダストリー5.0は単なる技術論ではなく「製造業の存在意義」の問い直しです。インダストリー4.0で「いかに効率よく作るか」を追求した先に、「そもそも何のために作るのか」という問いに向き合う時代が来ています。人間が豊かに、環境が持続可能に、社会が安定して成立するための製造業のあり方を再設計する——これがインダストリー5.0の本質です。日本の製造業がこの文脈でリーダーシップを発揮できるよう、Industry 4.0 Japanとしても積極的に情報発信していきたいと思います。
出典:欧州委員会「Industry 5.0: Towards a sustainable, human-centric and resilient European industry」2021年1月 / 経済産業省「ものづくり白書2021」