なぜドイツはインダストリー4.0を国策で推進するのか?
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ドイツでは、国策としてインダストリー4.0を進めている。メルケル首相もインダストリー4.0がらみのイベントに参加し、国家として取り組んでいる姿勢を鮮明にしている。

その背景として考えられるのは、当然ながら最先端の産業機器をドイツから生み出し世界標準とすること、そして先進的な産業機器を他国に先駆け開発し標準とすることで、産業機器の分野で世界をリードしていくことである。

かつて1980年代のコンピューターの進化を背景とした第3次産業革命では、今や生産設備では一般的なPLC(Programmable Logic Controller、シーケンサー)が誕生した。そのPLCの誕生により、シーメンスをはじめとするドイツの産業機器メーカーは、当時オートメーションの分野において世界市場をリードし収益をあげることができ、またその後のドイツの力強い製造業の成長の推進役となった。

Siemens_Simatic_S7_300(写真はシーメンスSIMATIC S7-300シーケンサ。筆者も十数年前はこのシーケンサーのプログラムをよくいじったものである。)

だが時代とともにPLCはコモディティー化し、今では三菱電機やロックウェル、オムロンに限らずPCベースのものも含めて多数の企業がPLC市場に参入している。

そのかつての栄光を再度起こすべく、ドイツは国内の産官学界を挙げてインダストリー4.0を推進することにより、再度オートメーション市場を席捲しようという経緯に至っているのである。
今回はシーメンスだけでなく、ボッシュ、SAP、ベッコフ、フェストーなど、ハード・ソフト・製造面からさまざまなドイツ企業が推進役になっている。

近年、ドイツ国内における製造現場において、コストを理由に低付加価値の生産活動は東欧や新興国に流出している。その一方ドイツ人の労働者所得は高騰しており、また少子高齢化が近隣諸国に比べ顕著に進んだ。

この少子高齢化による労働人口の減少を補う為という背景により、ドイツは移民や東欧からの出稼ぎ労働者に寛容であるが、その一方で製造業では高付加価値で複雑な作業を、言語や技術が不十分な外国人労働者にゆだねなければならないという事象が多くなってきている。

したがって、ドイツ国内で新たな産業を創出するために得意分野のオートメーションでさらなる高付加価値化を行い世界を再度リードしていくという側面だけでなく、技能や経験を持たない作業者に依存することない製造現場を創出するという意味の活動といった側面もあるのである。

(本稿は、筆者Harryが執筆したWikipediaの記事を元に、作者の考えを加えて再掲載したものである。)