製造業のデジタル化が進む中、工場の制御システム(OT:Operational Technology)をターゲットにしたサイバー攻撃が急増している。2024年には国内製造業の大手でもサイバー攻撃による生産停止事例が相次ぎ、OTセキュリティは経営の最優先課題の一つに浮上した。
OT環境固有のセキュリティリスク
従来の工場制御システムは閉鎖ネットワーク上で運用されており、インターネットとの接続がなかったためセキュリティ対策が後回しにされてきた。しかしIoT化・スマートファクトリー化の進展でOTとITが接続されるようになり、外部からの侵入経路が生まれた。PLC(プログラマブル論理コントローラ)やSCADA(監視制御・データ収集)システムは、OSの更新が困難で古い脆弱性が放置されがちであり、ランサムウェアや標的型攻撃の格好のターゲットとなっている。ダルグローバル・クレッシュ・ラッキー製薬など海外のサイバー攻撃事例では、工場ラインが数週間停止し数百億円規模の被害が生じた。
OTセキュリティの実装アプローチ
OTセキュリティの基本はネットワーク分離(セグメンテーション)とゼロトラストアーキテクチャの適用だ。ITとOTの間にDMZ(非武装地帯)を設け、データの一方向フロー(データダイオード)を実装することで、外部からの侵入を防ぎながらデータ収集を可能にする手法が普及している。加えて、OT特化の脅威検知ソリューション(Claroty、Nozomi Networks、パロアルトネットワークスのOT/IoTセキュリティなど)が工場ネットワークの異常通信をAIでリアルタイム検知する仕組みの導入が進んでいる。
Harryの着眼点
製造業のサイバーセキュリティは「守れるかどうか」ではなく「攻撃された前提でどう事業継続するか」という発想(サイバーレジリエンス)への転換が求められている。インシデント対応計画(IRP)の策定、定期的な侵入テスト、サプライヤーを含めたサイバーリスク評価が不可欠だ。日本では経済産業省が「産業サイバーセキュリティセンター(ICSCoE)」を通じてOT人材育成を進めており、製造業各社との官民連携が強化されている。
出典:IPA「情報セキュリティ10大脅威2025」、経済産業省「産業サイバーセキュリティ研究会WG2報告書」(2025)