ゼロトラストセキュリティで製造業を守る――「信頼しない、常に検証する」の原則

製造業のデジタル化が進む中、従来の「社内ネットワークは安全」という前提を崩す「ゼロトラスト(Zero Trust)セキュリティ」モデルが注目されています。テレワークの普及、クラウド活用、サプライヤーとのデータ連携が当たり前になった現代では、境界型セキュリティ(ファイアウォールで社内外を分ける方式)だけでは不十分になっています。

ゼロトラストとは何か:製造業でのリスク背景

ゼロトラストセキュリティとは、「内部ネットワークも外部と同様に危険である」という前提に立ち、すべてのアクセスを継続的に検証・認証するセキュリティモデルです。提唱者はガートナーで、2021年には米国バイデン政権の大統領令でも政府機関へのゼロトラスト採用が義務付けられるなど、急速に重要性が認識されています。製造業でゼロトラストが必要になった背景として、①コロナ禍でのリモートワーク拡大(社外からの社内システムアクセスが急増)、②スマートファクトリー化でOTとITネットワークが融合、③クラウドERPやSaaSアプリの多用でデータが社外に分散、④複数サプライヤーとのシステム連携増加、の4点が挙げられます。これらの変化により、従来の「社内は安全」という境界の意味が薄れています。

製造業のゼロトラスト導入ロードマップ

ゼロトラスト導入は一気に全体を変えるものではなく、段階的な移行が現実的です。まず①ID・アクセス管理の強化(多要素認証、特権IDの厳格管理)から着手し、②デバイスの健全性検証(エンドポイントのセキュリティ状態を常時確認)、③マイクロセグメンテーション(ネットワークを細かく分割して横方向への侵入を防止)、④アプリケーションとデータのアクセス制御強化という順序で進めるのが一般的です。MicrosoftのAzure AD(現Entra ID)、CrowdStrike、Zscalerなどのクラウドセキュリティソリューションがゼロトラスト実現を支援しています。国内では三菱電機のサイバー攻撃被害(2020年発覚)を受けて、大手製造業のゼロトラスト導入が加速しています。

Harryの着眼点

ゼロトラストは名前だけが一人歩きしている面もありますが、その本質は「セキュリティの思想転換」です。「社内ネットワークにいれば安全」という幻想を捨て、ユーザー・デバイス・データの一つひとつを常に疑い、最小限の権限しか与えないという徹底した管理が必要です。製造業では特にOT環境の老朽設備への対応が難しく、ゼロトラストの原則をどこまでOTに適用できるかが現実的な課題です。まずITから始め、OTはネットワーク分離とアクセス監視から段階的に進めるアプローチが現実的です。

出典:米国国立標準技術研究所(NIST)「SP 800-207 Zero Trust Architecture」2020年 / 経済産業省「サイバーセキュリティ経営ガイドラインVer3.0」2021年

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